2013年7月13日土曜日

マドリードが急浮上してきた理由とは?




 2020年夏季五輪招致を目指す3都市が7月3日/4日と2日間に分けてIOC委員に対してプレゼンテーションを行った。ここでのポイントは、東京がいかに他都市と差をつけて「招致成功の流れ」を作ることができるのかだったが、結論から言うと3都市は接戦となり、残り2ヶ月のロビー活動という最終段階での票固めに勝負が委ねられるという形になったのではないかと感じている。

 3都市が接戦になった要因としては、決して東京が低い評価を受けたという訳ではなく、マドリードがそれを上回る高い評価で急浮上してきた結果だと言える。

では、なぜ、今まで劣勢だったマドリードが急浮上してきたのか?一つの要因として、1992年バルセロナ五輪に出場したスペインのフェリペ皇太子の早い段階での起用が大きかったと思われているが、果たしてそれだけの理由でマドリードの存在感が増したのだろうか?

今週の月曜日に、AISTSの年次総会があり、約50名の卒業生が大学院に集結した。IOC、ソチ冬季組織委員会、リオ夏季組織委員会とIs等に、現在、働いている卒業生から有意義な情報を得る事ができたので共有したいと思う。

卒業生からの情報をまとめるとポイントは大きく分けて二点あると考えられる。

   1) 低予算型五輪を望むIOC

ソチ冬季五輪の開発費が予算の4倍以上(約5兆円)に膨らんでおり、IOCがAnti-Giantism思考にある。また、ブラジルW杯への公費支出に反応した大規模な反政府デモの影響により、FIFAがブラジル大会で見込まれる収益から少なくとも1億ドル(約98億円)を還元する方針を表明した事にIOCが敏感になっている。従って、今回は、IOCも低予算型の五輪開催を強く望んでいるようだ。  

2)クウェート王族出身のIOC委員であるアハマド氏の存在感
 
アジアオリンピック評議会(OCA)、各国オリンピック委員会連合(ANOC)の会長であるクウェート王族出身のIOC委員であるアハマド氏の影響力が大きく、ソチ冬季組織委員会内では彼をKingmaker(政界実力者)と呼ぶ。スポーツアコード会長選でのビゼール氏のサポート、AFC会長選でのサルマーン氏のサポートに彼は深く関わり、会長選を成功させている。今回のIOC会長選では、トーマス・バッハ氏をサポートしており、開催都市に関しては、水面下でマドリードをサポートしているとソチでは噂になっている。理由として、アハマド氏は20242028あたりにペルシア湾岸にイスラム初のオリンピックを持ってきたいと考えているようだ。それには、イスラム初のイスタンブールとアジア開催の東京を回避しないといけない理由があるからだ。

 以上の2点に加え、米国オリンピック委員会(USOC)で働いていたクラスメイトは、2024年五輪はアメリカに来る自信があると言う。その理由として、昨年にIOCとの間で揉めていた放映権の分配問題が解決された事、そして、USOCのプロブスト会長が新IOC委員になることをIOCが認めた事は大きな出来事である。これで、米国は、IOC委員は4人いる事になり、五輪招致の影響力も取り戻せると考えているようだ。

 最後に、以上の話を聞くと2024年はパリの100周年記念によってパリ開催が確実と言われた話は少し疑問に思えてくるし、2020年ヨーロッパ開催の可能性もあるのではないか。ANOC総会が終了してから6月まではマドリードの劣勢が噂されてきたが、7月はマドリードが急浮上しているという話を聞く。五輪招致レースの情勢は日々変化するものだと感じると同時に、徹底した票固めが必要だと改めて痛感させられる。There's no smoke without fire(火のない所に煙は立たない)と言った卒業生の言葉が忘れられない。マドリードが急浮上してきたのは、様々な思惑が交錯し、単純ではなく、確かな理由があるのだ。